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| - カテゴリ/定価/発売日
- 本/637円/2014-09-13
- 感想 98点
- 「八日目の蝉」と同じ様な息苦しく重厚な雰囲気を全編に漂わせておきながら、別の意匠を巧みに織り込んだ作品。特に、前半と後半(特に終盤)とで受ける印象が全く異なる。夫からは相手にされず、子供も出来ない銀行の契約社員であるヒロインが若い男に貢いで数千万の横領事件を起こすという設定はありきたり。倹約家及び買物依存症の2人のヒロインの友人を登場させ、ヒロインと対比させるという手法もありきたり。作者の筆力で一応は読ませるものの、前半は本作の意匠が全く読めず、凡作なのではないかと思った。特に、若い男は男性としての魅力が皆無であり、ヒロインが何故この男のために横領にまで走ってしまうのか、説得力に欠けると感じた。また、2人の友人の描写もさしたる効果が上がっていない様に思えた。
しかし、終盤、この若い男の心の底からの"告白"の辺りから、作者の意匠が分かってくると共に、2人の友人の描写も含めた全体構成の妙を感じた。一見、「フトしたキッカケ」で少額の横領から手を染め、それが段々エスカレートして.....という風に見えるが、それは違うと作者は言っている。子供の頃からの経済面(本作では"お金"が持つ意味(特にその魔性)を重視している)を含めた生活環境、躾、それらに基づいた自身の考え方の"積み重ね"で人間が出来上がっており、ヒロインの犯罪はある意味"必然"だったと言うものである。これは、「フトしたキッカケ」より遥かに怖い。「当り前」に対する考え方あるいはその対象が、人によってマチマチである事、金(犯罪)によって得られる自由・満足感は、それと同程度の束縛・渇望感をもたらす事等も本作全体で主張している事である。作者の一段の成熟を示す秀作と言って良いのではないか。(2014-11-19)
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